第27話 金獅子の夜

下町の〈金獅子亭〉の扉は、冴月が思っていたよりもずっと低く、彼女はわずかに身をかがめなければ中へ入れなかった。

裏手に回ると、じめついた黴の匂いに、昨夜のまま残った麦酒の酸っぱい発酵臭が混ざり合っていて、空気そのものが肌にまとわりつくようだった。帳簿の向こうからモリスが顔を上げる。頭の上のかつらは十五度ほど傾き、視線より先に、彼の手にしたハンカチがこちらへ向けられた。

「何の用だ?」

「聖十字学院の、短期雇いです」

その瞬間、モリスの目がぱっと明るくなった。

その種類の光を、冴月はよく知っている。前世で部屋を借りるとき、仲介業者が彼女の手にある一年分前払いの家賃保証金を見たときと、ま...

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