第30話 薔薇糖

レジナルドの平手打ちは、酒の匂いをまとって飛んできた。

イザベラは避けなかった。

木のトレーを握る手に力が入り、指の関節が白く浮き出ている。相手の袖口についた小さな赤ワインの染みまで、はっきり見えた。歪んだ虫みたいな形をしている。

「イザベラ」

扉口から聞こえたアーサーの声は、決して大きくはなかった。

けれどその一言で、部屋の中にいた全員が一斉に振り返る。

レジナルドの手は、半空中でぴたりと止まった。まるで見えない何かに縫い留められたように。彼はゆっくりと首をひねり、扉の方を見る。

「兄さん……今、誰のことを呼んだんだ?」

アーサーは彼を見もせず、ただイザベラを見つめ、もう一度...

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