第32話 唇の嘘

「行く?」

アーサーは、いかにも何気ない調子でそう訊いた。けれど、その目の奥に隠しきれていない熱だけは、まだくすぶったままだった。

その視線に灼かれたみたいに、冴月の胸の奥がじわりと熱を帯びる。頭でどう取り繕おうとしても、体のほうがずっと正直だった。認めたくなくても認めるしかない。この二人は、その手のことに関してだけは、あまりにも相性がよすぎた。その噛み合い方のせいで、結婚生活にあった大きな問題のいくつかが、ずっと見えにくくなっていたくらいに。

しかも前回から、もう一年と四か月。

ほんとうに、しないの?

その言葉は喉元まで上がってきて、きれいに並んで、あとは口をついて出るだけだった。...

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