第36話 寝言

イザベラが宿屋の部屋の扉を押し開けたとき、アーサーはすでに身支度を済ませ、卓のそばで彼女を待っていた。

上着すら脱いでいない。襟元だけが少し緩められ、手元に置かれた一杯の水は、もうすっかり冷えきっていた。

まるで、彼女が来ないかもしれないと警戒しているようでありながら、同時に、必ず来ると信じ切っているようでもあった。

窓の外では、雨脚が次第に強くなっている。斜めに吹きつける雨粒が、窓辺を細かく叩いていた。

「どれくらい待ったの」

「三十分ほどだ」

アーサーは顎を少し上げ、ベッドの縁を示した。

「座れ。鍵はかけていない。おまえのために開けておいた」

イザベラは座らなかった。腕を組...

ログインして続きを読む