第37話 飛雁湖

宿場の客室にある浴槽の中で、灰色っぽい塊が二つ、静かに水面を漂っていた。

律は身をかがめ、そのまま八秒ほどじっと見つめて、ようやくそれが自分の靴下だと気づいた。靴は桶の底に沈み、靴紐だけが水面に浮いている。しかも湯はまだ、かすかに温かかった。

七時きっかりに使いの少年が扉を叩き、律は机の前に座って短い書きつけをしたためた。

「俺の靴と靴下、どういうことだ」

返ってきた紙は、妙にきっちりと折られていた。四つの折り目はどれも強く押しつけられていて、書いた本人の気配がそのまま残っているようだった。

「自分で漬けたのよ」

律は無言で再びペンを取る。

「昨夜は眠かっただけだ。酔っていたわけ...

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