第39話 嘘

食事を終えたあと、本当ならそのままロープウェイに向かうはずだった。

けれど湖畔の角まで来たところで、冴月の足はふいに緩んだ。

陽気な弦の音が、風に乗って流れてきたからだ。

演奏していたのは、二十代前半くらいの若い男だった。低い腰掛けに座り、靴底で石畳に軽快なリズムを刻みながら弾いている。曲が盛り上がると、彼はそのまま勢いよく立ち上がり、帽子が飛びそうになるほど身体を揺らした。そばにいた年配の婦人が二人、つられるように身体を揺らして、歯ぐきが見えるほど楽しそうに笑っている。

冴月は人だかりの外側で、しばらくその様子を眺めていた。

「お金あげて」

隣に立つ律にそう言ったが、彼は動かなかっ...

ログインして続きを読む