第5話 運命の系統

その名前は彼女自身の――本名だった。

「桐島冴月」

金色のゴシック体が文字を浮かび上がらせる。彼女の虹彩の内側に、誰かが一筆ずつ彫りつけているかのようだった。

【最初の任務:十五分以内に古書閣の入口に到着せよ。セドリック・フォン・ハルトン公爵と衝突し、抱えている本を散乱させること。そのうち『帝国紋章学考究』が彼の注意を引く必要がある。カウントダウン開始】

十五分。

冴月はそのカウントダウンを睨みつけながら、脳裏に浮かんだ最初の感想は、このシステムの任務要項は三流の結婚式場の恋愛プランナーが書いたみたいだ、というものだった。

「見えているんだな」

すべてを予期していたかのように、律の声が背後から穏やかに響いた。

冴月は振り返らず、宙に浮かぶ数字だけを見つめていた。薔薇の迷宮から古書閣まで、一番近い回廊を通っても十二分はかかる。つまり、今すぐ走り出し、途中で挨拶のために自分を呼び止めるような貴族に一人も出くわさないよう祈るしかない。

なぜ最初の任務が当たり屋まがいのことなのか、問い詰めている時間などなかった。

「行くわ」彼女はスカートの裾を持ち上げ、迷宮から駆けだそうとした。

律が彼女の手首を掴んだ。力は強くないが、彼女を制止するには十分だった。

「走り出す前に最後まで聞け。俺の方が一ヶ月経験が長い」彼は早口で言った。「まず時間を見ろ。十分前の予告は、やってもやらなくてもいいもの。五分前なら、やらないと不運に見舞われる。だが十五分前というのは――」

彼は手首を離し、二人は並んで薔薇の壁が落とす影を抜けていく。砂利道に二人の足音が重なった。

「見送ったらどうなるか?試したことがある」小走りのせいでわずかに息を切らしながら、律は言った。「最初の一回は、二十四時間以内に金入れをなくした。十三クラウン半だ。次に馬車の車軸が折れた。学院の正門前で、内院の生徒の半分が通りかかる目の前でな」

彼は一度言葉を切り、横から伸びてきた薔薇の枝を彼女のために払いのけた。棘は彼女のドレスには触れず、代わりに彼の袖口をかすめて、小さく布が引っかけられる音を立てた。

「同じ日のうちに礼服を三着も駄目にした。熱い茶、ソース、それに落ちてきた窓枠だ」彼の声がさらに低くなる。「一日中マントにくるまって怪我人のふりをしていたら、侍女が俺の懐にメモを突っ込んできた――エレーナからで、秋の夜会の後で朝食を共にしたい、と」

冴月は笑いたかったが、笑えなかった。自分の状況が彼よりましだとは到底思えない。先ほどの冷たい風のせいで、今や十本の指のうち七本がこわばっている。

「それであなたは今や、不運学の権威ってわけね」彼女は息を切らしながら言った。

「少なくとも、お前に生き残り方を教える資格はある――」

【新たな任務指示:三十秒以内に右側三番目の回廊の角へ進め。さもなくば、以降の筋書きにずれが生じる】

律の表情は、まるで誰かに平手打ちでも食らったかのようだった。

今度ばかりは冴月もこらえきれず、くすりと笑い声を漏らした。決して意地悪ではない、本当に。ただ、眉をひそめ、走りながらシステムに新しい指示を押し付けられている瀬川律の姿が、法律事務所で離婚届にサインしていた時のあの無関心な表情よりも、ずっと生き生きとして見えただけだ。

「笑ってる場合か、走れ!」律が彼女の腕を引いた。

二人は三番目の回廊に駆け込む。その途端、冴月の靴の踵が石畳の隙間に嵌ってしまい、彼女はよろめいた。足首に鋭い痛みが走る。

律がとっさに彼女の肘を支える。その力は、まるで倒れそうな書類の束でも受け止めるかのように、安定的で無機質だった。

「踵が折れたわ」彼女は足元を一瞥して言った。「最悪」

「脱げ」

「え?」

「脱げ、俺が持つ。靴下で走れ」律はすでに屈みこみ、彼女のブーツに指をかけていた。「この身体はお前より華奢だ。靴のサイズも半サイズは小さいはずだ。どのみち捻挫しやすかった」

冴月は一瞬固まった。彼が覚えていたのは、彼女の靴のサイズ。この身体のではなく、桐島冴月の――三十七・五。いつも見つからない、あの厄介なサイズを。

彼女は何も言わず、壁に手をついてブーツを脱いだ。律はそれを受け取ると、両手にブーツを提げたまま再び走り出す。その速度は、驚くほど落ちていなかった。

絹の靴下のまま石畳を踏むと、まるで砕けたガラスの上を歩いているように冷たかったが、確かにさっきより速かった。

「あとどれくらい?」彼女は尋ねた。

「四分。あの角を曲がれば西側の回廊が見える」

四分。

だが、彼女が角を曲がった瞬間、金色のカウントダウンの隣に新しい文字列が躍り出た。

【警告:目標人物は二分前に古書閣入口を離れました】

冴月はぴたりと足を止めた。

彼女は身をかがめ、両手を膝について、大きく息を吸い込んだ。肺が砕けたガラスを飲み込んだかのように痛い。

スカートの裾は地面を引きずり、回廊の石畳の隙間に生えた苔や埃で汚れている。靴下のつま先には穴が開き、小さな皮膚が覗いていた。

「遅かったわ」膝に額を押し付けるようにして、彼女はくぐもった声で言った。

律もまた足を止め、彼女の背後で黙って立っていた。

二分。もし迷宮で時間を無駄にしなければ、もし角を曲がる時に踵がちょうど石の隙間に嵌らなければ――いや。責めても無駄だ。これは不運の法則が発動する前の、寛容な猶予期間が終わった印なのだと、彼女は痛いほど分かっていた。

彼女はゆっくりと身体を起こし、律の方へ向き直った。風で乱れた彼の金髪、走ったせいで少し着崩れた襟元。彼の表情は珍しく張り詰めており、明らかに彼女の次の行動を待っていた。

「不運が始まるわ」

そう言った途端、まるで目に見えない手が、彼女のスカートの裾から上に向かって引き裂いたかのようだった。

澄んだ裂ける音が響き渡り、洗いざらしの古いドレスが左膝の外側から足首の傍まで一直線に裂け、細く白い脚が半分露わになる。

風が吹き込み、その冷たさに思わず奥歯を噛みしめた。

裂けた裾が風にはためいている。彼女はそれを見下ろし、表情一つ変えなかった。まるで期限切れの新聞でも見ているかのようだ。

「金入れの紛失」から始まった不運の連鎖が、ついに自分の番になったのだ。

冴月はゆっくりと律に向き直り、その目をじっと見据えた。一言一句、はっきりと告げる。

「あなたの名刺と従僕を、貸してちょうだい」

律が眉を上げる。「何をする気だ」

彼女の顔に、ゆっくりと笑みが浮かぶ。

それは彼がこれまで見たどんなものとも違う、七分の報復と三分の計算が入り混じった、冷たい笑みだった。風が裂けたスカートを打ち付け、破れた旗のように彼女の脚を叩いた。

「とある犬に、私にぶつかりに来ていただくの」

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