第55話 代償

律がノックしたとき、冴月はちょうどドレッサーの前に座って、髪をまとめ上げているところだった。

三回。

せかすでもなく、ためらうでもなく、一定の調子で。

冴月は静かに息を吸い、膝の上に置いた手に二秒ほど力を込めてから、ようやく立ち上がって扉を開けた。

扉の向こうに立っていた瀬川律は、ゆったりした部屋着に着替えていた。けれど、その表情は冴月が予想していたものより、ずっと穏やかだった。怒りに燃えているわけでもない。目を赤くしているわけでもない。ただそこに立ち、ぶれない視線で彼女を見て、まっすぐに口を開く。

「エレナはどこだ」

疑問ではなく、断定だった。

うまいこと演じるつもりなのね。

...

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