第60話 忘れられない

街道の宿場にある茶店には、シナモンとキャラメルの甘い香りが漂っていた。冴月はミルクティーを一杯頼み、窓際の席に腰を下ろすと、二時間ほどぼんやりと市の人の流れを眺めていた。

悪くない。

少なくとも、あのがたがた揺れる馬車の中よりは、ずっと快適だった。

時間を見計らって、彼女は通信符を取り出す。

「セドリック」

ひとつ咳払いをして、少しだけ涙声らしい響きを乗せようと試みる。だが、やってみたところで効果はほぼ皆無だったので、冴月はすぐに諦め、いつもの調子に戻した。

「通信が切れてしまって、そのうえロス嬢に道端へ置いていかれたの。かなり歩いて、やっと宿場を見つけたわ。迎えに来てくれる?」

...

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