第62話 本金

冴月は馬車の隅に座り込み、窓の外を流れていく畑の畝をぼんやりと眺めていた。

一本、また一本と、土の筋が後ろへ消えていく。

御者台ではセドリックが手綱を握っている。その背筋は定規でも差し込まれているみたいにまっすぐだった。隣に座るエレナは、もう四十分もひと言も発していない。

馬車の中に温かいお茶はなく、火鉢のようなものもなかった。冴月は上着の襟を少し引き上げ、それから膝の上に残ったうっすらとした赤い塗料の跡を見つめた。

かなりこすったはずなのに、きれいには落ちていない。

頭を空っぽにすると、記憶というものは容赦なく入り込んでくる。

冴月の記憶力は昔から無駄に優秀だったが、今回も例...

ログインして続きを読む