第54章

和也は長いこと黙り込んでいた。

初音のその言葉に、彼自身も胸の奥が塞ぐような思いだった。赤く腫れた彼女の頬と、麻痺したように凪いだ瞳を見つめていると、不意に言葉を失ってしまう。

雪菜が寧々を利用して初音を傷つけるなどあり得ないし、必ず何か誤解があるはずだ。

だが、初音の口調からも、その表情からも、すでに何もかもを諦めきったような虚脱感が滲み出ていた。

「……分かった。この結婚がそこまで君を苦しめているというなら、これ以上引き留める理由もない」

和也は立ち上がった。

「だが、離婚は重大なことだ。一ヶ月の猶予をやるから、もう一度よく考え直してくれ」

「一ヶ月後、それでも君の意思が変...

ログインして続きを読む