第106章 棘のあるバラ

アレックス・フィリップ の視点

「若様」

背後で、エーダーの差し向けた男が無表情のまま、しかし礼だけは完璧に整えて頭を下げた。

「何だ」

「爺様がお呼びです。一度、お戻りください」

「……」

俺は冷えた目で、男の背後に控える護衛の列を一瞥した。

『お呼び』など建前だ。拒否権なんて最初からない。

エーダーの警戒心も、ここまで来ると笑える。

……ふん。

唇の端を嘲るように吊り上げる。

「行くぞ」

……

この屋敷は、いつ来ても墓場みたいに静かだ。使用人は厳選され、徹底的に躾けられている。所作に一片の綻びもない。

魂のない木偶。屋敷の主が気まぐれに削り出した彫像。決められ...

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