第6章 なるべく早くアレックスとの関係を解消する
オーロラ・ロス 視点
エイミーと細部を詰め終えた頃には、秘書はとっくに退勤していた。私はついでに社内の休憩室でシャワーを浴びる。
ぬるい湯が肌をすべっていくたび、ここ数日の疲れが少しずつ剥がれ落ちていく気がした。
浴室を出た途端、また着信音。
エイミーから注意事項でも来たのかと思って、足早にスマホを取る。
――でも表示されたのは、知らない番号だった。
どうしてだろう。理由なんてないのに、直感で分かった。アレックスだ、と。
時刻を見て、はっとする。今日一日、会社に籠もりっぱなしだった。もう夜だ。
迷ってから、通話を繋ぐ。
「アレックス?」
返ってきた声は、氷みたいに冷たい。
「時間通りに帰ってベッドに入れ。それも俺が教えるのか?」
「……」
*
川の苑へ戻ると、アレックスは暗紅色のシルクのバスローブ姿でソファにだらりと凭れていた。
私を見るなり、グラスを揺らして口角を上げる。
「オーロラ。金主より忙しい愛人なんて、見たことない」
皮肉は無視して、正直に答えた。
「ごめん。会社が立て込んでて」
「そんな話を聞きたいんじゃない」
深い碧い目が、私を絡め取る。甘く、逃がさない声。
「今お前がやるべきは――俺を満足させることだ」
そう言って、彼はだらしなく脚を開いた。
バスローブの下は、何もない。
剥き出しの欲望がそこにあって、命令は言葉にしなくても分かった。跪け。口でしろ。
全身が強張る。
開いた襟元から覗く胸板は、どんな女でも息を呑む造形だ。なのに私の胃の奥は、ひりつくみたいに重い。
屈辱のためだけの行為は、毎回苦しい。
それでも――これは取引だ。彼は私で欲を処理し、私は体を売って投資を得る。
「俺から動いてほしいのか?」
声に警告が混じる。私は裾を握りしめた。
彼が主導したら、たぶん耐えられない。
私は覚悟を決めて膝をつき、彼の前にしゃがみ込む。唇を開いてそれを含んだ。
大きな掌が後頭部を押さえ、さらに深く押し込まれる。
大きすぎて、息が苦しい。口に収まりきらない分を手で撫で、拙く舌で先端を舐めた。
口の中で脈打つ熱が、いやになるほどはっきり伝わってくる。
唇が閉じきらず、涎が糸を引いて口角から落ちた。濡れた感触が、私と彼の間を汚していく。
アレックスは喉を鳴らし、頭を仰いで快楽に息を吐いた。喉仏が上下し、整った顔に濃い欲が浮かぶ。
――卑しい。
そう思うのに、彼の低い吐息には妙な魔力があって、私の身体まで勝手に反応する。奥がじわりと濡れて、熱が溜まっていく。
昨夜、乱暴に抱かれた光景が一瞬で脳裏に蘇った。
私は無意識に脚を擦り合わせ、ゆっくりと腿をこすってしまう。少しでも紛らわせるように、少しでも快感を拾うように。
「ちゃんと舐めろ」
情欲で掠れた声が落ちる。
「自覚は足りないが、才能はある」
次の瞬間、頭を強く押さえつけられた。硬く熱い先端が喉の奥を叩く。
異物感に耐えきれず、胃が跳ね上がる。
「ん……っ、う……」
声にならない。口の中を塞がれ、潰れた音しか出せない。
それが彼をさらに昂らせたのか、腰が動き、口の中を乱暴に使われる。
唇が擦れてひりひり熱い。奥へ、奥へ。逃げる隙がない。
口が満たされているのに、下は妙に空虚で、余計にうずく。
初めて知るみたいな熱い欲が込み上げ、下着が濡れていくのが分かって、恥ずかしさに喉が詰まった。
涙が滲み、私は見上げてアレックスと目が合う。
「ボタンを外せ」
命令。
みじめでたまらない。でも逆らえない。
私は上着のボタンを外し、下着越しに胸の膨らみが分かるように晒した。
動くたび、胸が小さく揺れる。
今の私は、どれほど淫らなんだろう。
名門の令嬢の体面も、端正さも捨てて、床に跪き、玩具みたいに扱われている。目的はただ一つ。彼を満足させること。
アレックスは愉しそうに息を吐き、私の擦り合わされる膝に目を落として低く笑った。
「……いい面してる」
「嫌がってる顔のくせに、もう待てないんだろ」
「……」
私は唇を引き結んだ。
その拍子に、口の中のそれがきゅっと締まった。
アレックスが息を呑む。歯がわずかに当たったのだろう。
顎を掴まれ、口を離させられる。
碧い瞳が細まり、危険に光った。
「わざと?」
――そう。
でも、私は首を振った。認めない。
彼は苛立ったように笑い、もう一度ねじ込んでくる。低い声が脅す。
「次があったら――」
「歯を叩き割る」
動きはさらに荒くなった。喉が苦しい。涙が勝手に落ちる。
彼が限界に近いのが分かるのに、避けられない。
頭を押さえつけられたまま――口の中に、熱が溢れた。
生々しい匂いと塩気が鼻を満たす。
「飲め」
顎を掴まれ、命令される。
私は抵抗できず、喉を動かして飲み下した。
確認すると、アレックスは私を抱え上げ、そのままソファへ押し倒した。
視界が揺れて、背中が沈む。
「……ベッドに……」
それが、私の最後の願いだった。
