第8章
朝になり、私たちはついにL市の病院へと出発した。治郎は後部座席に身を預けていた。顔は紙のように真っ白だったが、その瞳にはまだ最後の希望の光が燃えていた。
「真由美」と彼は囁いた。「ありがとう」
私は彼の氷のように冷たい手を握りしめ、必死に涙をこらえた。
龍也はヘリコプターの操縦に集中しており、その顎のラインは緊張でこわばっていた。三十分ほどの飛行時間、私たちはほとんど口を利かなかった。けれど、そこにはかつてないほどの連帯感が漂っていた――誰もが治郎のために祈っていたのだ。
見慣れたL市総合病院のロビーに足を踏み入れると、すぐに消毒液の匂いが鼻をついた。金田先生は私たちと一緒に...
ログインして続きを読む
チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
7. 第7章
8. 第8章
縮小
拡大
