第154章 彼女の身の香り

事実、夏川紅蓮はまったく動いていなかった。ただ普通にそこに座り、静かに呼吸しているだけ。それなのに諏訪淳行は、車内の空気がやけに窮屈に感じられた。

理由は分かっている。夏川紅蓮の身体から、ほのかな香りが流れてくるからだ。

よくある女の子の香水とは違う。紅蓮の香りには、澄んだ清潔感があって、どこか人を安心させる温度がある。

初めて会ったときから、彼はそれを嗅いでいた。あのときは、紅蓮が何か香水をつけているのだと思った。いい匂いだと思って、まいに同じものを探させたほどだ。

だが、いくら探しても見つからない。

結局、偶然だった。彼が漢方薬局の前を通りかかったとき、ふっと同じ匂いが鼻をかす...

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