第172章 彼女、暗部ボス

たとえ病床から起き上がれたとしても、夏川瑠璃が夏川紅蓮の相手になるはずがない。

手錠がベッドのヘッドボードをこすり、ぎり、ぎり、と嫌な音を立てる。まるで鉄板の上で猫が爪を研いでいるみたいに、耳に刺さった。

入口にいた谷口刑事が駆け込んできて、夏川紅蓮に声をかける。

「手伝いましょうか」

「いいえ。大丈夫です、ありがとうございます」

谷口刑事はそれ以上踏み込まず、すぐに引き下がった。

夏川瑠璃も、自分が夏川紅蓮の髪一本にすら触れられないと悟ったのだろう。暴れるのをやめた。ただ、その目だけが毒蛇みたいに冷たく、しゅるりと舌を出す幻まで見えそうなほどだった。

夏川懐斗は、こんな瑠璃を...

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