第54章 そんなに焦らないで……

扉を押し開けて入ってきたのは、ほかでもない。夏川紅蓮だった。

白のイブニングドレスに身を包んだその姿は、まるで咲き誇る白薔薇。思わず掌で包み、大切に守ってやりたくなるような儚さがある。

――もっとも、諏訪淳行にそんな真似はできない。

この薔薇は、棘がひどく多いのだ。

「紅蓮、来たのね」

「お母様……」

夏川紅蓮は足早に歩み寄ると、一度だけ警戒するように諏訪淳行へ視線をやり、すぐ夏川夫人へ向き直った。

「須藤おばさんから、お疲れでお部屋に戻られたって聞いたんです。でも、上に行ってもいらっしゃらなくて……まさかこちらにいるなんて思いませんでした」

夏川夫人は微笑み、彼女の手を取っ...

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