第1章

鏡に映るその幼い顔に、私は瞬時に意識を覚醒させられた。

八歳の雪野由帆(ゆきのゆほ)。二つに結んだおさげ髪、ピンクのプリンセスドレスを着て、その無垢な大きな瞳で私を見つめている。いや、私自身を見つめているのだ。

私は、生まれ変わった。

二〇一二年、東京演藝センターのバックステージにある楽屋。私の人生を変えた、あの日に。

「まさか、この日に戻ってくるなんて……」

私は鏡の表面をそっと撫でながら、胸の内で渦巻く怒りを抑えつけた。

「今度こそ、あんたを助けたりしない」

前世の記憶が、潮のように押し寄せてくる。私は幼馴染の神谷豪(かみやたける)を助けるため、人身売買組織に誘拐され、山奥で丸十年もの地獄のような日々を過ごした。ようやく逃げ出した時には、豪はすでに芸能界のトップスターとなり、その隣には完璧な彼女、櫻井夏美——あの人攫いの養女がいて、私の居場所を完璧に奪っていた。

何より滑稽だったのは、私が豪に真実を告げた時、彼があのクズ女を信じることを選び、挙句の果てに彼女が車で私を撥ね殺した時でさえ、証拠隠滅に協力したことだ。

神谷豪、今世では、あんたが見捨てられる味を体験する番よ。

「由帆ちゃん、そろそろステージの準備よ。豪君が探してたわ」

メイクさんが優しく私の頭を撫でた。

私はすぐに冷徹な表情をしまい、天真爛漫な笑顔を浮かべる。

「はーい、すぐ行くね」

心の中では冷笑していた。豪、私を探してる? すぐに、もう探す必要もなくなるわ。

私はぴょんぴょんと跳ねるように楽屋を出て、ほどなくしてあの見慣れた姿を見つけた。

八歳の神谷豪。丸い顔に大きな瞳、小さなタキシードを着て、これから披露する歌を緊張した面持ちで練習している。

「由帆!」

私を見つけると、彼はすぐに駆け寄ってきて、私の手を固く握った。

「すっごく緊張する。もし途中で歌詞を忘れちゃったらどうしよう?」

前世の私なら彼を慰め、励まし、怖がらなくていいと伝えただろう。だが、今世では……。

「豪お兄ちゃんなら、すっごく上手だからきっと大丈夫だよ」

私は甘い笑顔を浮かべながら、心の中でカウントダウンを始める。

あと十分で、スタッフのふりをしたあの人攫いが現れる。

案の定、開演五分前、スタッフの制服を着た中年男性がバックステージに姿を現した。彼は子供たちの中にざっと視線を走らせ、最終的に豪に狙いを定めた。

「坊や、ディレクターさんが立ち位置を調整したいって。こっちに来てくれるかな」

男は豪に歩み寄りながら、偽りの笑みを浮かべた。

豪は少し戸惑ったように私を見る。

「由帆も一緒に行く?」

これが、運命の分岐点。

前世の私はついて行き、結果として豪の代わりに誘拐された。今世では……。

私は突然お腹を押さえ、苦しそうに腰をかがめた。

「うっ、急にお腹が痛くなっちゃった。先に行ってて。私、ママのところに行くから」

「そっか……じゃあ、すぐ戻ってくるからね」

豪は心配そうに私を見つめたが、それでも男について行った。

彼らの姿が見えなくなるのを待ち、私はすぐに体を起こす。その瞳には、一筋の陰湿な光が宿っていた。

パフォーマンスが始まった。

私はこっそりと後を追い、あの男が豪を人気のないバックステージの通路へと連れて行くのを見届けた。それから素早く二階の観客席へと走り、ガラス窓越しにバックステージの駐車場を見下ろす。

そこにはすでに一台のミニバンが停まっており、ドアが開け放たれていた。

駐車場に連れてこられた豪は、ようやく何かがおかしいと気づいたようだ。彼はもがき、逃げようとするが、男の力は八歳の子供よりずっと強い。

「助けて! 誰か! 由帆!」

豪の絶望的な叫び声が、私の耳に届いた。

私はガラス窓に張り付き、眼下で起こるすべてを見つめながら、内から込み上げてくる強烈な快感に浸っていた。

「前世のあんたも、こうやって助けを呼んでたわ……」

私は小さく呟く。

「残念だけど、今回は誰も助けに来ない」

豪が車に押し込まれ、ミニバンが素早く走り去るのを見送りながら、私は心の中で別れを告げた。

「さようなら、神谷豪。これからの十年、せいぜい楽しんで」

私は観客席に丸一時間座り続け、人攫いたちに十分な逃走時間を与えた。それからゆっくりとバックステージに戻り、「行方不明」になった豪を探し始めた。

「豪お兄ちゃん? 豪お兄ちゃん、どこー?」

私はバックステージの隅々を探し回り、声には程よい心配を滲ませた。

他のスタッフも手伝って探し始めたが、見つかるはずもない。

一時間後、私はついに「絶望」して家に駆け込んだ。

雪野家と神谷家の両親はリビングで待っており、涙でぐしゃぐしゃの私が飛び込んでくるのを見て、すぐに駆け寄ってきた。

「由帆! 豪君は? 一緒じゃなかったの?」

神谷家の父親が切羽詰まった様子で尋ねる。

私は息もつけないほど泣きじゃくりながら答えた。

「豪お兄ちゃんが、急にいなくなっちゃって……ずっと探したけど、見つからなくて……」

「一体どういうことだ? 一緒だったんだろう?」

神谷家の父親の声が震えている。

「おじさんが、豪お兄ちゃんをディレクターさんのところに連れて行くって言って……私、お腹が痛くてトイレに行ってて、戻ってきたらいなくなってたの……」

私は泣きながら、途切れ途切れにそう説明した。

「早く警察に! すぐに探して!」

母の雪野美和子がすぐさま電話を手に取った。

神谷家の両親は崩れ落ちんばかりで、神谷家の母親は気を失いさえした。彼らの苦しむ様を見ても、私の心に罪悪感は一片もなかった。

これが代償だ。あの時、あなたたちの息子は私が引きずられていくのをただ見ていた。今度はあなたたちが、子供を失う痛みを味わう番よ。

深夜、警察が来ては去り、捜索隊が出動したが、子供はもう遠くに連れて行かれた可能性が高いことを誰もが分かっていた。

私は一人で部屋に戻り、引き出しから練習生育成スクールのパンフレットを取り出した。これは、とうに準備しておいたものだ。

「今から、あんたより完璧な代役を見つけてやる。戻ってきた時に、取って代わられる絶望を味わわせてあげる」

パンフレットの中には、ひときわ目を引く練習生の写真があった。

椿野武(つばきの たけし)。孤児院出身で、豪と七、八分ほど似た容姿をしている。

前世でネット上のプロフィールを偶然見かけた時は、ただ似ていると思っただけだった。だが今、彼は私の復讐計画における最も重要な駒となる。

神谷豪、自分が神谷家にとってかけがえのない跡継ぎだと思っているの? 完璧な代替品とはどういうものか、見せてあげる。

私はペンを取り、椿野武の写真に丸をつけた。

十年の時間があれば、孤児院の子供をあんたよりも優秀で、完璧で、愛されるに値する存在に育て上げるには十分だ。

あんたが辛苦の果てに家に帰ってきた時、誰かがすっかりあんたの居場所を奪っていることに気づくでしょう。あんたの両親は彼をもっと愛し、跡継ぎの座も彼のものになり、あんたの名前さえも、彼がより良く体現してくれる。

そして私こそが、その全ての裏で糸を引く操り手となるのだ。

月光がカーテンの隙間から、私の八歳の幼い顔に降り注ぐ。だがその表情には、大人の冷酷さと計算高さが滲んでいた。

神谷豪、私が一生待ち続けたこの瞬間が、ついに来た。

復讐は、今夜から始まる。

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