第4章

今朝の県農業協会会議ホールは、いつもとは違う、張り詰めた空気に包まれていた。

何か月もかけて集めた証拠の詰まった書類フォルダーを、私は強く握りしめる。これから自分が成そうとしていることの重大さに反して、心は不思議なほど凪いでいた。

「木村先生、星川大学病院の偽造書類について、証言の準備はよろしいでしょうか」

私は、携帯電話に向かって囁きかけた。

『いつでもいけますよ、伊藤さん』

イヤホンから、心強い声が返ってきた。

その時、彼らが目に入った。

颯太と松本千恵が、裏口からそっと滑り込んできた。松本千恵は、彼の肩にこれみよがしにもたれかかり、「癌との闘い」という虚構から...

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