第5章

離婚届にインクが滲んでから、三週間。水野颯太の車のテールランプが、助手席の窓にしがみつき泣き叫ぶ直樹を乗せて、砂利道の闇へと消えていってから、三週間が経った。

その後の静寂は、最初は耳をつんざくほどだった。朝食を囲む賑やかなおしゃべりも、喘息の吸入器を忘れないようにという注意も、農場の経費をめぐる、あのうんざりするような口論も、もうない。

しかし、静寂には静寂なりの力があるのだと、私は、この三週間で知った。

私は、のこぎり台と合板でこしらえた間に合わせの診察台の横に、最新式の超音波診断装置を設置した。

「十年間のブランクはあるけれど、二十年分の知識はあるわ」

薬棚の隣に掛...

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