第6章

私が南の地方で新しい人生を謳歌していた、ちょうどその時。水野颯太は、羽鳥農機具修理店の油に汚れた作業場で、数十年物のトラクターエンジンから、錆びついたピストンを引き抜こうと悪戦苦闘していた。

「水野」

ヤニで黄ばんだ歯をした、がたいのいい上司が怒鳴った。

「もっと早く直せねえなら、代わりはいくらでもいるんだぞ。今日の午後には、トラクターがもう三台入ってくるんだからな」

スパナに手を伸ばした水野颯太の手は、微かに震えていた。

携帯がブザーを鳴らし、ニュース速報を伝えた。『地元獣医師、伊藤里奈、国民栄誉賞に選出さる』

ひび割れた画面の上で、私の写真が、彼に向かってにこやかに...

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