第7章

「伊藤先生」

アシスタントの声が私の思考を遮り、湯気の立つコーヒーカップを手に、部屋へと入ってきた。

「国際獣医会議の事務局から、一番にお電話です。来月の基調講演の件で、最終のご確認とのことです」

私は、デスクに置かれた内線電話の受話器を取った。

「伊藤です」

『伊藤先生、実行委員会の小野でございます』

その声には、私がここ数年ですっかり聞き慣れてしまった、敬意の色が滲んでいた。

『先生の革新的な地方獣医療モデルは、世界の動物医療に革命をもたらしております。基調講演者としてお迎えできることを、心より光栄に存じます』

「こちらこそ光栄です」と私は答えた。「来月でお願いしま...

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