第56章

盗聴器から伝わってきたのは、喧嘩の声だった。その合間には物を投げつける音も混じっている。

「出てけ!どこまでも遠くへ行け、二度と顔を見せるな」秋山美咲の声はまだ高く鋭く響いていた。回復具合は悪くないようだ。

「美咲ちゃん、怒らないで。私が悪かったんだ。君が良くなったら、もう一度結婚式を挙げよう」

渡辺光の口調は卑屈だった。こんな卑屈さは私の前では一度も見せたことがなかった。

「もう一度?何でも取り戻せると思ってるの?まだ私を恥ずかしめたりたいの?妊娠中どれだけ辛かったか、子供はこうして失ってしまって、私が受けた痛みをどうやって埋め合わせるつもり?」

「ごめん、美咲ちゃん。子供はまた...

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