第4章
翌朝、私は、まさか魂となって訪れることになるとは夢にも思わなかった場所にいた――私が幼い頃を過ごした、懐かしい我が家だった。
私を高橋真一という名のドラマに縛り付けていた不可解な力が、その矛先を変えたかのように、まるで砂鉄が磁石に引き寄せられるように、星川市にある母の古風な平屋建ての家へと私を引っぱっていったのだ。
母のリビングに姿を現したのは、ちょうど柱時計が午前十時を告げたときだった。
飯島県産の鋼のように、六十年の人生を黒い喪服に包んだ母、津崎友子が、私が遺した品々に囲まれて座っていた。
「理紗の仕事道具」「理紗の服」「理紗の書類」と書かれた段ボール箱が、板張りの床に悲しみの迷宮を形作っている。
レースのカーテンから差し込む陽光が、コーヒーテーブルの上に、ささやかな追悼のギャラリーのように並べられた私の写真立てに、繊細な影を落としていた。
大学の卒業式。不動産免許の授与式。そして去年の会社のクリスマスパーティーで撮った、高橋真一と私のツーショット。満面の笑みを浮かべる私と、その隣で退屈そうに携帯をいじっている彼が写っている写真だ。
母は年季の入ったその手で私のT大学の経営学の学位記を掲げ、まるで貴金属にでも触れるかのように、金の箔押し印をそっと指でなぞっていた。
「自慢の娘……」母は私の卒業写真に囁きかけた。「あんな男との結婚、止めるべきだったわ。あいつがあなたにふさわしくないことくらい、とっくに分かっていたのに。でも、あなたはあんなに夢中だったから……」
『ああ、お母さん……』
母の声は、私の銀行の取引明細書を開いたときに震えた。それは色分けしたフォルダーに几帳面に整理していた、私の金銭管理のきめ細やかさを物語る月々の記録だ。半年前の取引記録を見つけた母の目が、大きく見開かれる。
「十五万……三十万……五十万……」引き出し額を一つ一つ読み上げる声は、次第に信じられないという響きを帯びていく。「なんてこと、理紗。あなたはあいつに、すべてを渡してしまったのね」
最後の明細書にはすべてが記されていた。二週間で三回に分けて送金された、総額二千万円。私の全財産。
消えた。すべてが。私が顧客基盤を立て直そうと死ぬほど働いている間に、彼の会社を救うために高橋真一に渡されたのだ。
母は銀行の明細書を胸に抱きしめ、泣き始めた。それは普通の悲しみがもたらす穏やかな涙ではない。娘が、その価値もない男のためにすべてを犠牲にするのを見届けた母親の、むき出しの怒りに満ちた嗚咽だった。
「なんて美しくて、なんて愚かな娘……」母は泣きじゃくった。「あいつのために、過労で死ぬまで働いて……」
そのとき、電話が鳴った。
母は目を拭い、サイドテーブルの上の電話に手を伸ばした。
「はい、津崎です」まだ涙でかすれた声で母は応えた。
「お母さん」受話器から聞こえてきた高橋真一の声には、私が恐れるようになった、あの独特の焦燥感が滲んでいた。「理紗のダイヤモンドのブローチが要るんだ。あの家宝のやつだ。どこにある?」
母の表情が悲しみから驚愕へと変わるのを、私は見ていた。
「真一さん……?」母の声はかろうじて聞き取れるほどの囁きだった。「真一さん、理紗は――理紗はね――」
「理紗が何だって言うんだ」高橋真一は母の言葉を遮った。「いいか、あんたたちがどんな茶番を演じてるか知らんが、こっちは付き合ってる暇はねえんだ。今日中にそのブローチが必要なんだよ。大事なもんなんだ」
大事なもの。小嶋美咲のためなのは、間違いない。私の夫のベッドで眠り、私の人生を懸けた仕事を盗んだあの女が、私の祖母の形見の宝石を身に着けるために。
「真一さん」母は震える声で、もう一度試みた。「理紗は、死んだのよ」
沈黙。
そして、高橋真一の笑い声が響いた。苦々しく、人を小馬鹿にしたような笑い声だ。
彼は言った。「よせやい、母さん。理紗は大げさなところがあるが、さすがに悪ふざけが過ぎる。本人に代わってくれよ」
「死んだのよ!」母の声が、銃声のように部屋に響き渡った。「私の娘は死んだの! この人でなし!」
「馬鹿なこと言うな」高橋真一は吐き捨てるように言った。「理紗がすぐ隣に座って、あんたに言うことを教えてるんだろ。何かに腹を立てて、俺を懲らしめたいだけだ。そうだろ? まあ、こっちはそんな遊びに付き合う気はないね。どのみちあのブローチは、あいつにとっては何の意味もないものだ。一度も着けたことすらなかったじゃないか」
『あなたが「古臭い」だの「安っぽい」だのと言ったから、一度も着けなかったのに』
母はあまりの勢いで立ち上がったため、椅子がガタンと音を立てて後ろに倒れた。
「懲らしめるですって? 娘の死が、あなたを懲らしめるためだと思うの? あなたの価値のない会社を救おうと、心臓発作を起こすまで働いたのよ!」と母は叫んだ。
「心臓発作?」高橋真一の声が一瞬だけ揺らぎ、すぐにまた硬くなった。「母さん、正気かよ。理紗はいくつだ、三十二だろ? 三十二で心臓発作で死ぬ人間なんていねえよ」
母は言い返した。「一日十八時間も働けばなるわよ! 食事もろくに取らず、コーヒーとストレスだけで生きていればね! あなたみたいな恩知らずのクズのために、健康を犠牲にすれば、そうなるのよ!」
母がそんな言葉遣いをするのを、私は聞いたことがなかった。星川市婦人会の重鎮で、元日曜学校の教師で、私が十二歳のときに「ちくしょう」と言っただけで石鹸で口を洗った、あの津崎友子が。
「あんた、頭おかしいんじゃないのか」高橋真一は言ったが、その声にはひびが入り始めていた。「理紗は大丈夫だ。ただ――」
母は絶叫した。「あの子はもう冷たい土の下にいるのよ、高橋真一! あなたのせいよ!」
あまりに長い沈黙が続き、電話が切れたのかと思った。
ようやく高橋真一が口を開いた。その声は、先ほどよりずっと小さくなっていた。「……何を……言ってるんだ?」
「お金よ」母の声は、殺意を帯びた囁きに変わっていた。「二千万円。あれがどこから来たと思ってるの?」
また沈黙。
高橋真一は続けた。「何のお金のことか――」
「よくもそんな嘘がつけるわね!」母の声はガラスを粉々にするほど鋭かった。「娘はすべてを売ったのよ。車も、宝石も、貯金も、退職金も、一番大きな契約で得た手数料も。十年かけて築き上げたすべてを。あなたのために!」
「あのお金は小嶋美咲からだ」高橋真一は弱々しく言った。「彼女が会社に投資してくれたんだ」
「小嶋美咲?」母の笑い声は、純粋な劇薬のようだった。「あなたの下で股を開いてる、あの二十四歳のアシスタントのこと? あの小嶋美咲のこと?」
「一円残らず理紗からよ! あなたがあの安っぽい女と遊び呆けている間に、あなたの価値のない会社を救うために、あの子は全財産を清算したの!」
電話の向こうからガチャンと何かが落ちる音がした。きっと携帯電話だろう。
彼が電話に戻ってきたとき、その声はかろうじて聞き取れるほどだった。「母さん……嘘だろ」
「小嶋美咲に聞いてみなさいよ。投資するための二千万円をどこで手に入れたのかってね」母は不気味なほど冷静に言った。
また長い沈黙。
「これは現実じゃない」高橋真一は囁いた。「理紗が……そんなはずは……」
「明日。午後二時。櫻木霊園、正面入口」母の声は花崗岩のように硬かった。「理紗に会いたいの? あのブローチが欲しいの? 自分の妻に会いに来なさい」
高橋真一は答えた。「墓地? 母さん、狂ってる――」
母は言った。「冗談ですって? 私が自分の娘の死で嘘をつくとでも思っているの?」
高橋真一は言い返した。「あんたたち二人なら、復讐のためなら死んだフリくらい平気でする狂気があるだろうが!」
母の声は、私が耳を澄まさなければ聞こえないほど静かになった。「なら、私の間違いを証明しにいらっしゃい、高橋真一。理紗を見つけて、本人に直接お聞きなさい」
そう言って、母は電話を切った。
数分間、母は怒りで手を震わせながら、受話器を握りしめて立っていた。それから、私の卒業写真をまっすぐに見つめた。
「心配しないで、愛しい子」母は囁いた。「お母さんが、お前が何を犠牲にしたのか、世間に知らしめてやる。あいつが来ないなら、私がその襟首を掴んででも、真実の前に引きずり出してやるから」
『愛してるよ、お母さん』
もし抱きしめることができたなら、そうしただろう。その代わり、私はいつものあの引っぱられる感覚を覚えた。高橋真一のもとへ、今まさに自分の世界が足元から崩れ去ろうとしている男のもとへ、引き戻されていく感覚を。






