チャプターセブン

セフィ

仕事が休みだったので、私はテレビをつけて、ぼんやりと映画を観ることにした。昨晩のお祭り騒ぎの疲れがまだかなり残っていたが、二度寝する気にはなれなかったのだ。巨人のような私の護衛と相談し、アクション映画を観ることに決めた。いざアクションシーンが始まると、ヴィクトルは主人公のあらゆる動きにいちいちダメ出しを始めた。実のところ、映画そのものより、ヴィクトルの解説の方が面白かったくらいだ。

寝ないように頑張ったものの、結局は眠りに落ちてしまった。目を覚ますと、キッチンの方からひそひそと話す声が聞こえてきた。ヴィクトルとアンドレイだと思い込んだ私は、何も考えずに声をかけた。「さてと、どっちが晩ご飯を作ってくれるの?」

会話が止まり、一瞬の沈黙が流れた。私はカウチから身を起こし、キッチンを覗き込んだ。そこに立っているのは間違いなくヴィクトルではなかったし、その人物が話していた相手もアンドレイではなかった。

「しまった」と私は呟き、カウチから飛び退いて、キッチンにいる見知らぬ二人のロシア人巨漢から距離を取ろうとした。「あなたたちは誰? ヴィクトルとアンドレイはどこに行ったの!?」

「落ち着け。俺はイワン、こっちはミーシャだ。ヴィクトルとアンドレイが休めるよう、交代したんだ」

私はイワンとミーシャをまじまじと観察した。ミーシャの方がイワンより少し背が高いが、二人ともヴィクトルたちに負けず劣らずの大男だ。イワンはスキンヘッドで、黒い山羊髭を生やしている。首には昨夜は気づかなかったタトゥーが入っていた。ミーシャは他の三人よりも若く見え、威圧感も少なかった。柔和な緑色の瞳をしていて、実際には笑っていなくても、常に微笑んでいるような印象を与える。その瞳は、彼の黒髪と鮮やかなコントラストをなしていた。

「イワンから引き継ぎを受けていたところなんです。彼はこれから外に戻ります」ミーシャは穏やかなロシア訛りで言った。「起こしてしまってすみません」

「いえ、いいの。寝るつもりじゃなかったし。ヴィクトルとアンドレイは戻ってくるの?」私は尋ねた。彼らがいなくて寂しいなんて変な感じだが、アパートにいないと思うと急に心が空っぽになったような気がした。

ミーシャは優しく微笑んだ。「ええ、セフィ。朝には戻りますよ。彼らには睡眠が必要ですから。シフト制で動いているんです」

「じゃあ、二人は本当にヒロポン中毒(覚醒剤中毒)じゃなかったのね」私は首の後ろをかきながら、頭の上に腕を伸ばして背伸びをした。

イワンがこれまで見たこともないような凄まじい形相で私を睨みつけた。「なんだと!?」と声を荒らげ、私に向かって踏み出してくる。私が後ずさりして壁に背中がついたのと同時に、ミーシャがイワンの腕を掴んで制止した。

ミーシャはイワンの前に立ちふさがり、物理的にも視覚的にも彼を遮った。「イワン、冗談ですよ。彼女なりのジョークです。緊張すると冗談を言う癖があると、ヴィクトルから聞いています。誰も薬なんてやっていませんよ。特にヴィクトルはね」

「なんだか勝手に診断されて丸裸にされた気分だけど、彼の言う通りよ。冗談だったの。今朝、隣人が仕事に出かける時間になってもヴィクトルが私の部屋に来てたから、いつ寝てるんだろうと思って、薬でもやってるのかって言っただけ」

イワンは深く息を吐いた。体の力は多少抜けたようだが、その視線は私の魂に穴を開けんばかりに焼き付いていた。彼は私に背を向けると、アパートを出て行った。

私は壁に張り付いたまま、数秒間動けなかった。彼が戻ってこないことを確認するためだ。

「彼、いつもあんなに愉快な人なの?」

ミーシャは大きく息を吸い込みながら、両手で顔をこすった。「イワンに悪気はないんです。ただ、薬物使用に関しては人一倍強い嫌悪感を持っていてね」

「……肝に銘じておくわ」

新しい護衛たちと世間話をする気力もなくなり、私は諦めて寝室に向かった。仮眠をとった後だというのに、まだ疲れは残っている。これ以上寝たところで、死ぬわけじゃないしね。

私はスマホを確認した。マックスから三件のメッセージが入っていた。今どこにいるのかという問いかけ、仕事に来ないことへの文句、そして私が大丈夫かどうかを心から心配する内容だった。私はマックスを兄のように慕っていた。彼はいつも私をからかうけれど、同時にいつも私の無事を気にかけてくれていた。

『大丈夫よ、マキシマス。まだ喉がすごく痛いから、一晩中喋らなきゃいけないなんて無理だと思ったの』

マックス:『証拠写真がないなら信じないぞ、赤毛ちゃん』

私は今のあざやかな色に染まった首元の自撮りを手早く撮り、彼に送信した。

マックス:『うわ、マジかよセフィ。痛々しいけど、ある意味すげえな。家にいることにして正解だよ。そんなひどい有様、誰も見たがらないだろ。客が逃げちまうよ。いや、普段以上にって意味だけどな』

『最低。私の体調と、それ以上に自分の収入源を心配してくれてどうもありがとう』

マックス:『笑。からかっただけだって分かってるだろ。真面目な話、ひどい見た目だぞ。何か必要なものはあるか? 今夜仕事が終わったら、何か食べ物でも持って行こうか?』

『ううん、もう寝るつもり。寝れば何でも治るでしょ?』

マックス:『分かった。気が変わったら連絡してくれ。いつでもデリバリーボーイになってやるからさ』

『ありがとう、マックス。でも大丈夫。私がいないからって今夜は楽しみすぎないでね!』

マックス:『ああ、楽しいわけないだろ――キムが君の代わりに入ったんだから』

『うわ、最悪。ごめんね。彼女が呼ばれるとは思わなかった。普段は昼番なだけに』

マックス:『この借りは高くつくぞ』

私はスマホをロックし、充電器に繋いだ。洗面所に行って顔を洗う。首の状態は本当にひどいものだった。あざは鮮やかな紫色に変色しており、指の形がくっきりと分かるほど深く残っていた。

(うわあ。明日仕事でどうやって隠そう? タートルネックを着るしかないわね。それも長袖の)

袖をまくり上げて腕を見ると、こちらもまた見事な紫色になっていた。陶器のような白い肌とあざの色のコントラストが強烈で、そのせいで傷跡がいっそう目立ってしまっている。

私はあまり深刻に考えるのはやめることにした。アドリックがくれた高額なチップがあるから、シフトを数回休んでも支払いに困ることはないだろう。

また着信音が鳴ったので、マックスかと思って確認した。

『気分はどうだ、ソルニシコ?――アドリック』

待って、彼が私の番号を知ってるの? いつの間に? まあ、アパートの場所を知っているくらいだから、番号を知っていても不思議ではないか。何を言ってるの、私。この時点できっと銀行口座も経歴も全て把握されているに決まっている。この手の人々の力には、本当に限度がないのだから。

『大丈夫です、アドリック。気にかけてくれてありがとう。疲れてはいるけど、平気です』

アドリック:『よかった。休んだほうがいい。あざにはアルニカを塗るといい――治りが早くなる。今頃はかなり黒ずんでいるだろう』

『冗談じゃないくらいよ。首全体が紫色なの。アルニカを買いに行かなきゃ。持ってないから』

アドリック:『私の方から送らせよう。君は休んでいろ。目が覚める頃には届いているはずだ。おやすみ、ペルセポネ』

『ありがとう。おやすみなさい』

私は再びスマホをロックし、サイドテーブルに置いた。ベッドに腰を下ろし、物思いに耽る。なぜまた、胃のあたりが温かくなるような感覚を覚えているのだろう? なぜマフィアのトップが私のことを気にかけているの? なぜ私を見張るために個人のボディガードを寄越したの? 一体何が起きているというの? 私が部屋を出ていた間のあの会議で、何があったの?

前のチャプター
次のチャプター