第49章

篠原菫子は急に顔を上げて藤原和也を見つめた。その小さな顔がさっと赤く染まった。

男は最後の一口のパンを食べ終えると、立ち上がってそのまま歩き出した。篠原菫子には一瞥もくれない。

「……」

むしろ、傍に立っていた山田宏が突然篠原菫子の前に来て、小声で一言「篠原さん、照れて戸惑っている時の方が、より一層綺麗ですよ」

そう言うと、主人について食堂を出て行った。

篠原菫子は慌ただしく朝食を一口かき込むと、彼らの後を追って外に出た。食堂の外に出ても、藤原和也の車は見当たらない。彼が行ってしまったと思い、彼女はただ一人食堂の前に立ち、静かに何かを考えているようだった。

少し離れた車内で、藤原...

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