第105章

田原奥様は上機嫌で帰っていった。玄関の向こうへ姿が消えるや否や、何人かの貴婦人たちが堪えきれないとばかりに平原綾香の周りへ寄ってくる。

シャネルのオートクチュールを纏った女が、綾香が隣の椅子に無造作に置いたバッグへちらりと目をやり、口を尖らせた。

『綾香、あの人、あなたが誰かも知らなかったの? 笑えるんだけど』

別の貴婦人も口元を手で隠してくすくす笑う。

『そうそう。しかもわざわざバッグまで届けに来るなんてね』

「まあ、責めても仕方ないわ」

最初に口を開いた女が、ゆったりと言葉を継いだ。

「田原家って、ここ二年で急に伸びたところでしょう。土台が浅いのよ。あの人たちの『界隈』と、...

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