第107章

田原奥様はその場に立ち尽くし、しばらくのあいだ頭が真っ白だった。

ここ数日、自分が平原綾香にへつらうようにバッグや宝飾品を差し出していた光景が脳裏に蘇り、頬がかっと熱くなる。

あのときは得意になっていた。上流の、その中枢にいる人物と繋がれたのだと。

けれど今となっては――相手から見れば、自分など滑稽な道化にしか映っていなかったのだろう。

『本当に知らなかったんです……』

田原奥様は悔しさに目尻を赤くしながら、縋るように言った。

『あの方、自分が誰かなんて一度も口にしませんでしたし、誰も教えてくれなくて……私は、あなたの役に立ちたかっただけで……』

『役に立つ?』

田原隆志が鼻...

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