第111章

平原綾香は今日一日、自分のオフィスに戻らなかった。理由は単純――遠山景幸を避けるためだ。

ロビーで遠山景幸の姿を見かけた瞬間、彼女は決めた。今日は自分のフロアには行かない。まっすぐ松村礼嗣のところへ行こう、と。

もともと彼の部屋で仕事をすることは珍しくない。今さら不自然でもないはずだ。

平原綾香はエレベーターで最上階まで直行した。秘書室の林原深川が彼女を見つけ、わずかに目を丸くする。

「平原さん? こんな早くに?」

「うん。今日は松村様のお部屋、借りるね」

平原綾香は表情ひとつ変えずに言った。

「企画をいくつか、松村様とすり合わせたいの」

林原深川は頷いた。少し引っかかるもの...

ログインして続きを読む