第137章

平原綾香は一瞬、言葉を失った。まさか――本当に引き受けるとは思っていなかったのだ。

もともと松村礼嗣を皮肉るつもりで言っただけなのに、あの様子だと冗談では済ませない。どう見ても「本気でやる」顔をしている。

『ちょ、ちょっと待って』平原綾香は慌てて立ち上がる。『ガスコンロ、点け方わかる?』

松村礼嗣は振り返りもしない。

『わかる。俺、子どもじゃない』

『じゃあ、塩と砂糖の見分けは?』

『できる』

まだ何か言おうとしたが、松村礼嗣はもうキッチンへ入っていて、ついでみたいに扉を閉めた。

ガラス越しに見える背中が、しばらくその場で止まる。鍋やフライパンの置き場所を確認しているらしい。...

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