第138章

平原綾香はドアを閉め、扉板に背を預けたまま、そっと息を吐いた。

危なかった。あと数秒遅れていたら、大崎様が中へ入ってくるところだった。

踵を返してキッチンへ戻り、扉を押し開けた瞬間――平原綾香は、思わず固まった。

コンロはぴかぴかに拭き上げられ、鍋も皿も元の位置に収まり、換気扇のフィルターまで外して洗ったらしく、窓辺に立てかけて乾かしてある。

黒く焦げついたカスはゴミ袋にまとめられ、口をきっちり縛って、出入口の脇に置かれていた。

松村礼嗣はシンクの前で手を洗っていた。袖は肘までまくり上げられ、引き締まった前腕の筋がくっきり浮いている。

平原綾香の頭に、我ながら意外な考えがふっと湧...

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