第18章

その日の午後、平原綾香の車は松村グループ本社ビルの正面に停まった。

綾香は書類袋を提げたまま回転扉へ向かう。ロビーに足を踏み入れた瞬間、受付のほうから甲高い女の声が突き刺さってきた。

「私が誰だかわかってるの? 松村礼嗣の婚約者よ! 礼嗣に会わせて、今すぐ!」

綾香は歩みをわずかに緩め、視線を上げる。

平原寧々が受付の女性に指を突きつけ、ロビー中に響く勢いで喚いていた。

受付はまだ若い女の子だ。顔色を青くしながらも必死に平静を装い、丁寧に返している。

「平原さま、申し訳ございません。ご予約がない場合はお取次ぎできません。まずは松村さまの秘書へご連絡いただき――」

「秘書? 私が...

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