第30章

翌朝――。

平原綾香は足音を殺しながら、平原小春の病室へ入った。娘はまだ眠っていて、ちいさな胸が呼吸に合わせてかすかに上下している。

綾香はベッド脇に腰を下ろし、小春の指先を包むように握った。そのまま、子守唄をそっと口ずさむ。

時計を見れば、もう遅い。

綾香は名残を断ち切るように病室を出た。松村グループへ向かおうとした、そのとき――廊下の向こうから、見覚えのある姿が目に入った。二人に支えられながら、ゆっくりこちらへ歩いてくる。

「……お婆さん?」

綾香が呼びかけると、松村お婆さんは顔を上げた。青白い頬に、穏やかな笑みが浮かぶ。

「平原綾香かい。あなたもここに?」

「小春のお見...

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