第85章

夜。田原隆志は書斎に座り、コネで手に入れた観客リストに目を通していた。

もともとは単なる好奇心だった。松村礼嗣がどの席に座るのか確認しておけば、明日、挨拶に行くにも段取りがつく――それだけのつもりだった。

リストは思った以上に長い。だが田原隆志は辛抱強く、上から一行ずつ追っていく。指先が、ふと止まった。

『松村礼嗣』

その名が、はっきりと記載されている。

田原隆志の口元が、勝手に吊り上がった。やはりだ。林原深川は嘘をついていない。松村様は本当に来ていた。となれば、松村様は自分の娘を気に入っているのだろう。平原小春の演奏が、そこまで抜きん出ていたわけでは――。

次の瞬間、笑みが顔に...

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