第98章

松村礼嗣は、ほとんど駆け落ちるように階段を下りた。

扉を押し開けた瞬間、秋の冷たい夜風が、ぶわりと室内へ流れ込む。

玄関ポーチの灯りの下に――平原綾香が立っていた。

松村礼嗣は敷居に立ち尽くし、彼女を見つめたまま、言葉を失う。

再会の場面なら、何度も頭の中で描いてきた。

怒鳴りつける。どうして黙っていなくなったのか問い詰める。この数日どこにいたのか、吐かせる。

そうなるはずだった。

なのに今は、喉の奥に全部が詰まって、ひとつも外へ出てこない。

ただ、見ているだけだった。

先に口を開いたのは綾香だ。

『こんな時間なのに、まだ起きてたの?』

礼嗣は答えない。

階段を下り、...

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