第114章

しばし逡巡したのち、乙村彩羽は口を開き、答えようとした。

その瞬間――背後、そう離れていない場所から、危険な圧迫感が押し寄せてくる。

乙村彩羽は真っ先に異変を察知した。

「……少し考えます」

陸田清人へそう短く返すと、背後の足音が止まるより早く通話を切り、振り返る。

予想どおり、そこにいたのは石塚勝矢だった。

上質なシャツにスラックス。広い肩と長い脚が際立ち、整った顔立ちには一片の感情も浮かばない。近寄りがたいほどの気品が、全身から滲み出ている。

来るだろうとは思っていた。それでも視線がかち合った瞬間、乙村彩羽の胸はひゅっと縮んだ。

数秒固まり、遅れて我に返る。

「石塚若様...

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