第42章

乙村彩羽はすぐに返事をせず、胸の奥でそっと警戒心を尖らせた。

「ただ届け物をするだけですよね。運転手さんはいないんですか?」

田村が答える。

「運転手は二人いるんだが、一人は今日休みで、もう一人はさっき若様に付き添って実家へ行った。タクシーで行ってくれ。費用はこっちで落とす」

乙村彩羽の瞳には、まだ疑いが消えない。

もう夜九時を回っている。この時間に、女ひとりで石塚家の実家へ、どうでもいい書類を届けに行けだなんて。

どう考えても、普通じゃない。

とはいえ、田村はこのところ特に妙な様子も見せていなかった。

「以前、石塚さんは君のことを気に入っていた。乙村家が潰れたあとも、別荘に...

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