第89章

乙村彩羽は、いったん部屋に戻って身支度を整えてから向かうつもりだった。だが向こうで、木宮朱理がふいに振り返る。

視線がぶつかった瞬間、彩羽は眉をひそめ、何も言わずに扉を閉めてリビングへ向かった。

背後で村上が追いかけようとした、そのとき。部屋の椅子に置かれた紙とペンが、視界の端に入った。

――デザイン案。

村上はリビングへ歩いていった彩羽の背中を一度だけ見やり、足音を殺して、こそこそと部屋の中へ入り込んだ。

リビング。

彩羽は木宮朱理の前まで歩み寄り、「木宮さん」と声をかけた。

朱理はソファに腰掛けたまま、下から上へと彩羽を値踏みするように眺め、それから立ち上がる。真正面から、...

ログインして続きを読む