第94章

乙村彩羽はずっと石塚勝矢の傍をうろついていたし、平原修司の家庭事情も耳に入っていた。彼に姉がいることも知っている。

ただ――相手が自分のことを知っているかどうかは、わからない。

今、平原由美と視線がぶつかった瞬間、胸の奥がひゅっと縮んだ。

由美は数秒、彩羽の顔をじっと見つめ、それから石塚勝矢へと視線を移す。

「木宮朱理って、こんな顔だったっけ? いつの間に婚約者変えたの? こっちの子のほうが朱理よりずっと可愛いじゃない。どこのお嬢さん?」

由美がここへ戻ってきたのは前回が二年前。そのとき、たまたま石塚勝矢と木宮朱理が一緒にいるところに遭遇し、二人が婚約したと知ったのだ。

記憶の中...

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