第99章

高橋遠矢は、それでもまだ信じられない気持ちだった。

「でも……」

彼が何を言おうとしているのか、乙村彩羽にはわかった。自嘲気味に唇の端をつり上げる。

「手放せない人たちって、まだ傷が浅いだけ。私はあの人にぶつかって、頭から血が出るほど痛い目を見た。これ以上好きでいたら、たぶん命まで持っていかれる。この『好き』は重すぎるの」

高橋遠矢は、それ以上何も言わなかった。

車が石塚家の別邸の敷地へ入り、乙村彩羽が降りようとしたとき、彼は堪えきれずにもう一度だけ尋ねた。

「……じゃあ、恨んでるのか?」

乙村彩羽はドアノブに手をかけたまま、その言葉に一瞬だけ意識が遠のく。

少しして、首を横...

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