第508章

水原悟は鉛のように重い足取りをピタリと止め、酸になりそうなほど熱を持った目を閉じた。

脳裏をよぎるのは、あの夜の光景。互いの肌を晒し合い、彼の熱を帯びた薄い唇が、血が滲むほど赤く染まった彼女の耳たぶを擦りながら、どれほど愛しているかを何度も何度も囁いた。

彼女は彼の下で、恥じらいを含んだ柔らかい花を咲かせたのだ。その甘い吐息、微かな嬌声、そして従順な反応……

唐沢楓は「愛している」と一言も口にしなかった。それでも彼には痛いほど伝わっていた。彼女の心には、まだ自分がいるのだと。

本来なら、二人の間にはまだ希望があったはずだった。

なのに、己が何度も彼女を失望させ、苦しめ……そのわずか...

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