第102章

林野正明は渡部綾香の姿を認めると、顔に浮かんだ表情が一気に複雑になった。

「綾香……来たのか」

なるべく穏やかに、父親らしい威厳まで混ぜようとしているのがわかる。

「座れ。あの日は……助かった」

言葉はどこか乾いていた。これまで見下し、時には敵視すらしてきた娘に礼を言う。その行為自体に慣れていないのだろう。

渡部綾香は果物籠を脇の棚へ置き、波の立たない声で言った。

「通りがかっただけです。ついでに様子を見に来ました。林野さん、怪我の具合は?」

「林野さん」

その呼び方ひとつで、林野正明と林野佳恵の顔色がさっと変わる。

林野正明は眉を寄せ、不快感を隠さない。

「綾香、俺は父...

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