第105章

茶の香りがふわりと立ちのぼり、場は静謐で上品だった。

沈村敦司と渡部綾香の会話は表向きこそ丁寧だが、水面下では互いの腹を探り合うような緊張が走っている。

一方、鈴宮クルミは終始どこか上の空で、熱を帯びた視線を沈村敦司に貼りつけたまま、割って入る隙と自分を印象づける機会を探していた。

給仕が再び湯を足しに来たとき、沈村敦司は何気ない仕草で、自分の前にある――一口しか飲んでいない茶杯をすっと前へ押し出した。そして柔らかな声で言う。

「すみません。これ、少し冷めてしまったので替えていただけますか」

動きは自然。けれど視線だけが、渡部綾香の前にある、さきほど一口含んだレモン水へと、かすめる...

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