第121章

荒事をくぐってきた男だ。沈村敦司は、杯を口に含んだ瞬間に悟った――この酒はおかしい。薬を盛られている。しかも、かなり強い媚薬の類だ。

視線がすっと冷える。灰色の瞳の奥で、刃のような光が走った。

林野佳恵へ目を向ける。そこにあるのは、計算と貪欲を張りつけた顔。

次いで、傍らに立つ渡部綾香へ。表情は穏やかに見せながら、瞳の底には薄い愉悦と冷たさが沈んでいる。

林野佳恵が渡部綾香を陥れようとして、手違いで自分が飲んだのか。

それとも――渡部綾香が流れを読んで、わざと自分に飲ませたのか。

どちらにせよ、利用された。しかも、こんな下劣な薬で。

怒りと、踏みにじられたような吐き気が胸の奥か...

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