第132章

渡部綾香は声のするほうへ目をやり、瞳孔がきゅっと縮んだ。

鈴宮京也が来ている。

黒のスーツに身を包み、背筋を真っすぐ伸ばした長身。冷えた刃みたいな面差しと、近寄るなと言わんばかりの圧が、甲板の空気を変える。

小林がすぐ後ろに付き、さらに数名の護衛が周囲へ散って人波を警戒していた。

鈴宮京也は甲板へ足を踏み入れると、鋭い視線でぐるりと見回した。何かを探している――そんな目だ。

その視線がドクターと渡部綾香のいる隅をかすめた瞬間、ふっと止まる。

綾香の心臓が、一拍抜けた。

鈴宮京也の目が、彼女に落ちた。

正確には――彼女の背中に。

その一瞬、綾香は感じた。空気を裂き、人混みを貫...

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