第134章

渡部綾香は、仮面の奥の眼差しを一切揺らさなかった。まるで沈村敦司の言葉が、自分に向けられたものではないかのように。

「沈村さん」

微笑みを含ませた声は、どこまでも事務的だった。

「闇夜と取引の話をなさりたいなら、ノルさんに当たってください。私はただの同伴者です。私の一存では決められません」

沈村敦司は数秒、彼女を見据えた。目元に浮かんでいた笑みが、じわりと引いていく。代わりに宿ったのは、刃物みたいな観察の光。

――探りを入れている。

彼女が『ノル』なのかどうか。

もしそうなら、反応に綻びが出るか、あるいは焦って否定するはずだ。

だが渡部綾香は崩れない。

静かに、完璧に、話題...

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