第149章

渡部綾香が医務室の扉を押し開けたとき、高堀文松はベッドの背に身を預け、濁った目で天井を見つめていた。何を考えているのか、表情からは読み取れない。

扉の音に気づくと、彼はゆっくりと顔を向ける。

来たのが渡部綾香だとわかった瞬間――長いこと死んでいたはずの瞳に、ふっと灯がともった。

「……綾香さん」

掠れた声。錆びついた歯車が回るみたいに、ぎこちない。

「本当に……あなたなのか……」

綾香は足早にベッド脇へ寄り、枯れ枝のような手を包み込んだ。冷たい。体温が抜け落ちたみたいで、骨ばかりが浮いている。

「高堀おじさん」

喉がきゅっと締まる。

「来たよ」

高堀文松は彼女を見つめたま...

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