第45章

 彼女は顔に浮かんだわずかな哀切をそっと引っ込め、ふたたび温和で聡明な仮面を被り直した。声音だけは誠実そのものに整えて、こう言う。

「渡部さん。こんな話、別に他意はないの。ただね……同じ女として、あなたがあまりに若いまま、これから渦の中へ入っていくのを見ると、つい一言だけ言っておきたくて」

 言葉を区切り、ためらいがちに――しかし、わざとらしいほど丁寧に続ける。

「鈴宮家の女主人って、表向きは華やかでもね。その裏側は、男より強い心臓が要るの。いろんなものを受け止めなきゃならない。たとえば……ご主人のそばには、たぶん、いつだって「ほかの女」が絶えない。その覚悟は、しておいたほうがいいわ」...

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