第68章

車は渡部グループ本社ビルを離れた。

渡部綾香は後部座席に身を沈め、目を閉じる。さっきまで会議室と記者の包囲で張り詰めていた神経を、どうにか落ち着かせようとしていた。

助手席のシベットは、後方を警戒するようにルームミラーを睨み続けている。

しばらくして、シベットがわずかに首を傾け、声をぐっと落とした。

「ボス、尾行です。後ろの黒いワンボックスと、左後方のグレーのセダン……渡部グループを出た瞬間から付いてきてます。距離は保ってるけど、手慣れてる」

綾香は目を開けないまま、眉だけがほんの少し動いた。

林野正明が、もう張り付かせた?

それとも、しつこい記者がまた――?

「振り切れる?...

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