第73章

その声音は、日野がこれまで一度も耳にしたことのないものだった。どこか気怠げで――それでいて、妙に甘く、親しげで。

だが、その言葉を言い終え、さらに踏み込もうとした――その瞬間。

布団の中の人影が、彼の接近と囁きに煽られたようにびくりと動き、震えを含んだ甘い吐息を漏らした。

……違う。

鈴宮京也の動きが、ぴたりと止まる。

ほとんど同時に、研ぎ澄まされた嗅覚が布団の奥から漂う「知らない匂い」を捉えた。

渡部綾香の、冷たく澄んだ清潔な気配とはまるで別物。

さらに、部屋に充満する甘ったるい異様な香りの発生源――鈴宮京也の視線が稲妻のように走り、部屋の隅、薄く煙を上げる燃焼物の輪郭を射抜...

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